写真のアルミブロック。何に使うのでしょう?よくよく上の面を見ますと、合わせマークにポンチが打って有ります。
答えはこの写真。
ターンテーブルシャフトの位置決め用、フランジ部分にはターンテーブルを止めるネジ穴が3個有ります。
この位置を正確に出す為の冶具です。
アルミブロックは1/100mm単位の精度で切削して有ります。このブロックにシャフトをはさみ、位置出しをして有る精密バイス(万力)に挟むとシャフトの位置が固定されます。
3個の穴ですから120°で振り割ります。この時役に立つのが学校で習ったサイン、コサイン、タンジェント。フライスの台は2/100mm単位で位置を決められますから、狙った位置にピッタシカンカン。
この冶具を作る以前のターンテーブルは現物合わせだった為、三箇所全部ではターンテーブルの穴と合わず、合う一箇所を探すようでした。
粗削りを旋盤屋さんに頼んだのは大正解。一日で3本を仕上げられました。いかに肉抜きが大変だったかを実感。今迄だったら4日近く掛かっていましたから。切粉の処分にも頭を悩ませないで済みますし(笑)。
1日と言っても少々残業はしましたが。
今迄は全部自分のところで作っていたターンテーブルシャフト。ナンセ一週間掛かりっ切りで5本しか作れない。
原因は殆ど切粉を作るような作業。僕のところには旋盤が一台しか有りません(有るだけでも凄いかな、笑)。で、粗削りを重切削でやっちゃうと旋盤の精度がガクンと落ちてしまいます。
で、今回は旋盤屋さんに粗削りだけを頼みました。彼らの所は重切削専用の旋盤を持っています。
仕上げだけ僕の処でやろうと言う魂胆です。
旋盤屋さんの社長、此れをくれる時に『切粉の量が半端ではなかった。』と言っていました。
問題は、未だ納品書が来ていない。いくらかな?(汗)
僕のプレーヤーのシャフトとスラスト受け。全重量が掛かるのですから、シッカリ作らないとNG。
で、シャフトの横に開いている穴。此れは何でしょう?
このシャフト、先端がボールが入るように凹んでいます。
オイルを満たした軸受けに差し込みますと、凹んだ先端には空気が残ってしまいます。それは拙い。
その凹みの中心から細い穴を開け、その穴の先端部に横から穴を。
その部分はオイル溜めの溝で、たまった空気は螺旋の溝を伝って、上部へ逃げる。という仕組みです。出来上がると簡単ですがたまった空気を逃がすには?
結構頭を捻りました。
今作っているプレーヤーのシャフトの軸受けです。最近マイナーチェンジ(笑)。自己満足かもしれませんが、軸受けの共振を少しでも少なくしたいとの変更です。元々は砲金の丸棒からの削出し。今回はアルミ丸棒に砲金スリーブの焼き嵌め。材料代は安いですが、掛かる工程ははるかに複雑。結果値上げをしないといけないのに前の値段で受注をしてしまった(汗)。
焼き嵌めは、もう何度もしているのに、未だに緊張。一瞬の勝負です。途中で引っ掛かったらアウト。其れ迄の苦労が全てパー。焼き嵌めの内径が50mm以上有ると膨張する寸法も大きいので楽なのですが、僕のする作業は大きくても20mm以内。今回は20φで長さが90mm。中に入れる金属も砲金ですから熱膨張係数は大きい。結果グズグズしていると途中でストップ。
巧く出来てホッ。今夜のお酒は美味しそう・・・。
注)焼き嵌めをしてからスリーブの内径を仕上げます。精度を少しでも上げたいつまらない拘りです。
注文を受けました、アイドラーのゴムの張り替え。今回のは、ゴム屋さんもかなり苦労した様子。かなり以前のターンテーブルでアイドラーとベルトを併用しているメカニズムです。アイドラーのゴムの張り替えは、まずゴムを焼きつけ、その焼きつけたゴムを研磨機で真円に仕上げます。焼きつけの時にそれなりの温度に上がります。結果表面に焼け跡が出来てしまい、更に研磨の時チャックに咥えるので、咥え痕が付いてしまいます。一般には精度に問題の起きない所を咥えての加工なのですが、今回のアイドラーにはその咥え代が殆ど有りません。基本的にゴム屋さんの職人はオーディオには詳しくありません。結果重要な所に咥え痕が残ったり焼け跡の位置が悪く精度が悪くなったり・・。
結局、仕事の内容を理解してもらうのが一番大変なのです。
何とか理解をしてもらい、かなりメンドウな加工をしてもらいました。まだ、この様な職人さんがいる間はレコードを楽しめます。
今回修理に持ち込まれたターンテーブルシャフト。マイクロの3000用です。
故障内容は廻らなくなったので、一度修理に出した。廻る様には成ったが、以前の音と違うと言うものです。音のレンジが狭くなって聞こえるし、とにかく変。
分解してみました。内部のボールを取り出したら、其のすぐ横に金属破片が・・・。
本来当たり傷の付く筈が無いシャフトエンドのくぼみに、ボールとの磨耗痕も有ります。
前に組んだ方が間違って金属片を入れてしまったか、元々入っていたのを、掃除不十分で残してしまった。
運悪く、其の金属片がボールと受け面の間に入り込みボールはロック。
結果、本来は滑らないボールとシャフトの間が滑り、シャフト下部に磨耗痕を作ってしまった。と考えます。
この様な状態に成りますと、お客様の言った音の問題も納得が行きます。
ボールの下に有るスラスト受けには若干ですがボール痕が出来ていますので、無くす為に、研磨屋さんへ。研磨すると表面焼き入れ部分が無くなってしまうので再度焼きいれ研磨。
殆ど特注品の世界ですね。